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カンボジア進出支援はなぜ「手続き代行」で止まるのか──依頼前に知るべき業界構造

カンボジア進出支援はなぜ「手続き代行」で止まるのか──依頼前に知るべき業界構造

カンボジアに進出したい。そう決めたあと、多くの会社がまず「現地の支援会社をどこに頼むか」を調べ始める。法人設立、税務登録、ビザ申請。日本にいながら自身ですべてを進めるのは現実的ではなく、現地で動ける協業パートナーが必要になる場面は多い。

ただ、支援会社を比較する前に知っておくべきことがある。カンボジア進出支援というサービスそのものが構造的に「手続き代行」へ偏りやすいという事実である。

これは特定の支援会社が悪いという話ではない。 進出サービスの一般的なビジネスモデル自体にそうなりやすい構造が含まれている。その構造をまずは理解することが肝要となる。


カンボジア進出支援の大半は「手続き代行」で完結している

結論から言えば、カンボジア進出支援をうたう会社の多くが提供するサービスの範囲は、進出初期段階の現地手続き代行にとどまっている。

会社設立の登記手続き、税務登録、銀行口座開設のサポート、ビザ申請。こうしたメニューはどの支援会社のサイトにも並んでいる。実際、これらは進出時に必ず発生する実務であり、誰かに任せたいと考えるのは当然である。

しかし、現地で支援の仕事をしていると気づくことがある。依頼する側が本当に困るのは、その初期段階の手続きだけではない。法人口座を開設し、諸々の登記が済んだ「その後」に続く事業活動開始の実務の方が難題となる。

私は2008年にカンボジアで起業し、以来17年超にわたって現地で事業を経営している。進出支援の仕事で企業と向き合う中で、「設立はできたが、そこから先が回らない」という話を何度も聞いてきた。手続きは完了している。だが事業が前に進まない。この状態が起きるのは、支援の範囲が手続き代行で終わっているからである。

支援会社を比較する前に、まずこの構造を知っておく必要がある。


なぜ進出支援は手続き代行に収束しやすいのか

これは支援会社の怠慢ではない。ビジネスモデルとして、初期段階の手続き代行にフォーカスした方が圧倒的に効率的だからである。

法人設立の登記、税務登録、ビザ申請。これらは手順がある程度決まっている。必要書類を揃え、所定の窓口に出し、一定の期間を経て完了する。手順が明確に決まっている手続きであるため、ある程度事務処理が可能な現地スタッフがいれば、慣れてくれば1人の担当スタッフが複数の案件を並行して進めることができ、「件数×単価」でビジネスが回る。支援会社のトップか営業担当は案件を取れた後の面倒を気にせずガンガン営業を進められる。要は手離れの良いサービスとして定型化しやすく、効率的に採算がとれるビジネスなわけだ。

一方、設立後の支援はそうはいかない。採用で止まる会社もあれば、輸入ライセンスで止まる会社もある。税務申告の実務対応に手間がかかる会社もあれば、銀行との関係構築が課題になる会社もある。業種も規模も進出の背景も違うため、やるべきことが毎回変わる。工数が読めず、対応範囲も事前に決めにくい。

私自身、支援の仕事をする中でこの構造を日々実感している。手続き代行だけであれば、ある程度の件数を同時に回せる。だが、設立後の伴走に入ると、1社ごとに状況がまるで違い、かかる時間も読めない。 進出支援業務の効率を突き詰めるのであれば、初期段階の手続き代行に集中するのが経営判断として合理的になる。多くの進出支援会社がそこに収束するのは、構造的に必然であると言える。

カンボジアでは、商業省への法人登記に加え、税務局への各種登録、業種によっては関連省庁の許認可取得も必要になる。手続きだけでも一定のボリュームがあり、それだけで仕事として成立する。(出典元:日本貿易振興機構(ジェトロ)「外国企業の会社設立手続き・必要書類 | カンボジア」

だからこそ、支援会社を比較するとき、手続きメニューの充実度だけを見ていると、本質的な違いが見えなくなる。どの会社も手続き代行はやっている。差が出るのはその先である。


手続き代行の先で実際に止まるのはどこか

カンボジアに進出した企業の活動が滞るポイントは、設立手続きの中ではなく、ほぼすべて「その後」に集中している。

まず人の問題である。現地スタッフを採用しても、定着しない。どの媒体にどう募集をかければいいかも手探りで、やっと採用できても、ある日突然出社しなくなり連絡もつかない。引き継ぎという概念自体が薄い。そのたびに業務が止まり、採用からやり直しになる。これが一度や二度ではなく、繰り返し起きる。

次に、銀行口座の運用である。カンボジアでは、商業省での法人登記が完了してから口座を開くわけではない。登記手続きの途中で資本金振込用の法人口座を先に開設しておく必要があり、日本の「登記が済んでから口座を作る」という感覚とは順序が根本的に違う。この順序を把握していない支援会社に依頼すると、入口の段階で話が噛み合わない。

口座開設そのものは、対応できる支援会社が多い。だが、開設後の実務になると動ける支援会社は一気に減る。たとえば、海外からの送金が着金するまでに想定以上の日数がかかり、その間に仕入れの支払いが止まる。送金元の銀行名や目的の記載一つで手続きが滞ることもある。口座は開いたが回せない、という状態に陥る会社は少なくない。

さらに、税務の実務対応がある。カンボジアでは月次での申告・納付が原則であり、付加価値税(VAT)のほか、源泉徴収税や給与税なども毎月処理する必要がある。日本のように年1回の決算で済む感覚とはまるで違う。(出典元:日本貿易振興機構(ジェトロ)「税制 | カンボジア」

制度として知っていることと、実際に制度対応の実務を回し続けることは別次元の話である。ここに対応できる支援会社は限られる。

これらはすべて、会社ごとに事情が違う。飲食業と製造業では詰まるポイントが異なるし、同じ業種でも規模や進出時期で状況は変わる。手続き代行の型では対応しきれない領域である。


複数の事業を自分で経営してきたから分かる、手続き代行の限界

私は2008年にカンボジアで起業し、以来、農業、IT、金融、製造・物流と、業種もフェーズも異なる事業を現地で経営してきた。農業では230ヘクタールの稲作農地でコメを生産し欧州向けに輸出する事業を立ち上げ、金融では現地農家が大型農機を購入する資金融資に特化した現地金融機関を設立した。複数の日系IT企業とオフショア開発企業を設立、運営もしたし、食品・ペットフードを製造し日本向けに輸出する事業の立ち上げ、運営も実行中である。
それら全ての経験から言えることは、会社や事業は立ち上げたあとの後の経営・運営実務に圧倒的に時間と労力を取られるという、至極当然の結論だ。 日本で会社を経営していれば当たり前と感じる話だが、なぜか海外だと不思議なことに、会社が設立された段階であとは何とかなると感じてしまう経営者・事業家は多い。

たとえば税務。日本では年に一度の決算で大枠が見える。だが、カンボジアでは毎月の申告が走る。初めてその実務を自分で回したとき、事業を立ち上げながら同時に月次の管理業務を回す負荷は、想像していたものとまるで違った。

採用も同じである。こちらで人を雇い、定着させ、チームとして機能させるまでには、日本で積んだマネジメント経験だけでは対処できない場面が何度もあった。どこに募集をかければいいのか分からない。やっと採った人が契約内容と異なる要求を始め、交渉しても着地点が見えない。そうしたことが、業種を問わず繰り返し起きた。

私が行う進出支援サービスに設立後の実務支援まで含まれているのは、自分自身がその部分で最も苦労したからである。手続き代行だけでは足りないと分かっているのは、自分でその限界にぶつかったからにほかならない。


カンボジア進出支援を依頼する前に確認すべきこと

支援会社を比較するとき、多くの人は手続きメニューの一覧を見比べる。法人登記、税務登録、口座開設、ビザ申請。どの会社も似たような項目が並んでいるため、違いが見えにくい。結果として、価格やレスポンスの速さで選ぶことになりやすい。

だが、本当に確認すべきなのは、手続きが終わった後に何をしてくれるかである。

以下は、あくまで私自身が現地で事業をやり、支援の仕事をしてきた中で見えてきた確認の切り口である。絶対的な基準ではないが、支援会社の対応力を見る材料にはなる。

  1. 設立後の月次税務申告や会計処理にどこまで対応するのか
    カンボジアでの法人設立は、商業省での法人・定款登記だけで終わらない。その後に税務当局でのPatent登録・VAT登録があり、これらが完了した時点から毎月の税務申告義務が始まる。「会社設立」をうたいながら税務登録は範囲外、あるいは別の会計事務所に丸投げする前提の業者もいる。設立支援に税務登録まで含まれるか、登録後すぐに始まる月次申告にどこまでフォローがあるかは、最初に確認すべき点である。
  2. 採用や労務で問題が起きたとき、相談できる体制があるのか
    現地スタッフの採用・定着は、進出後に最も手がかかる領域の一つである。労務トラブルが起きたときに相談できる体制があるかどうかで、対応のスピードと精度が変わる。設立手続きだけを扱う業者では、この領域に入れないことが多い。
  3. 業種特有の許認可やライセンス取得を支援した実績があるのか
    業種によっては、法人設立後に追加の許認可やライセンス取得が必要になる。この対応には業種ごとの知見が要る。過去にどのような業種の支援実績があるかを聞くことで、その業者の対応範囲が見えてくる。
  4. 設立後に想定外の問題が発生した場合、どういう形で対応するのか
    進出後の実務では、事前に想定していなかった問題が必ず出てくる。そのとき「契約範囲外です」で終わるのか、状況に応じて動けるのか。この違いが、設立後に相談先がいないという状態を避けられるかどうかを分ける。

手続き代行の範囲は、どの支援会社でも大きくは変わらない。差がつくのは、その先に入れるかどうかである。この点を確認せずに依頼先を決めると、設立は順調に進んだのに、その後の実務で相談先がいないという状態になりやすい。

比較の軸を「手続きメニューの充実度」から「設立後にどこまで伴走するか」に切り替えるだけで、見える景色はかなり変わる。


手続き代行は入口にすぎない。進出の本番はその後に始まる

カンボジア進出支援の業界は、構造的に初期段階の手続き代行へ偏りやすい。これは特定の会社が悪いのではなく、ビジネスモデルとしてそちらの方が効率的だからである。

だからこそ、依頼する側がこの構造を理解しておく必要がある。

手続き代行だけを比較しても、差は見えない。どの会社も法人登記はやるし、税務登録もビザ申請もメニューに載っている。そこで比較しても判断材料にはなりにくい。

見るべきは、設立が終わった後にどこまで入るかである。採用で困ったとき、税務で想定外のことが起きたとき、銀行との実務が回らなくなったとき。そうした場面で動ける相手かどうかが、支援の価値を分ける。

支援会社を選ぶときの軸は「何を代行してくれるか」ではなく、「どこまで入ってくれるか」に置くべきである。私はそう判断している。


自社のカンボジア進出で、手続きの先に何が起きるかを整理したいなら

業界の構造として、カンボジア進出支援は手続き代行に偏りやすい。この事実を理解したうえで支援会社を比較すれば、判断の精度は上がる。

ただし、実際にどこで止まりやすいかは、業種・規模・進出の目的によってまったく異なる。一般論として構造を理解することと、自社の場合に何が起きるかを見通すことは別の作業である。

設立手続きの先に何があるのか、自社の場合はどこに注意すべきなのか。個別に整理することで、進出後に「相談先がいない」という状態を避けることができる。

自社の進出計画に合った支援の範囲を整理したい方自社のカンボジア進出で、手続きの先に何が起きるかを整理したいなら

業界の構造として、カンボジア進出支援は手続き代行に偏りやすい。この事実を理解したうえで支援会社を比較すれば、判断の精度は上がる。

ただし、実際にどこで止まりやすいかは、業種・規模・進出の目的によってまったく異なる。一般論として構造を理解することと、自社の場合に何が起きるかを見通すことは別の作業である。

設立手続きの先に何があるのか、自社の場合はどこに注意すべきなのか。個別に整理することで、進出後に「相談先がいない」という状態を避けることができる。

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本記事は、カンボジアビジネスサポート(CBS)チャンネルで配信されたインタビュー動画の内容をもとに構成しています。タイ政治に関する記述は、カンボジアに在住する外国人の視点からの分析であり、タイ国内の見方とは異なる場合があります。
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髙 虎男
2008年カンボジア企業 / 公認会計士
アドバイスだけの専門家ではありません。カンボジアで17年間、自分の資金で事業を立ち上げ、従業員を雇い、行政の理不尽とも戦ってきました。その全経験をもとに、日系企業の進出を支援しています。
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