寝かせるだけで年利3〜6%は本当か。カンボジアの銀行口座を公認会計士の目で検証する
カンボジアでは外国人でも米ドル建ての銀行口座を開設できる。定期預金の金利は大手で年3〜4%、中堅銀行なら5〜6%。最大手ABA銀行はカナダ上場企業の100%子会社で、厳格な会計監査を受けている。口座は当日開設、クレジットカードは翌日発行。現地17年の公認会計士が、銀行選びから手続きの実務までを検証した。
2000年代半ば、ベトナムで事業をしていた頃の話だ。日本から送金し、現地通貨に替え、事業を回して、利益は出た。ところが、その利益を米ドルに戻して日本へ送ろうとしたところ、銀行で断られた。
「外貨がない」と言われたのである。儲かっても、最後に持ち出せない。あのとき受けた衝撃は大きかった。
その後、カンボジアに来て金融環境の見え方が一変した。米ドルが広く流通し、外国人でも銀行口座を持ちやすい。送金、受け取り、日常決済まで、資金の動線が比較的シンプルだ。私がカンボジアで受けたポジティブな驚きのひとつは、間違いなくこの金融環境だった。
ただし、「寝かせるだけで年利3〜6%」という言い方は、半分正しく、半分危ない。そういう金利が出る場面はある。だが、それがどの銀行でも、いつでも、誰にでも当てはまるわけではない。金利だけ見て判断すると、肝心なリスクを見落とす。ここでは、口座開設の現実、おすすめできる銀行の考え方、金利の見方、そして見落としやすい注意点を、公認会計士の目で整理してみたい。
カンボジアの銀行口座が注目される本当の理由
カンボジアの銀行口座が注目される理由は、まず米ドルで資金を持ちやすいことにある。新興国で事業をする際、いちばん神経を使うのは「稼げるか」だけではない。稼いだ資金をどう守り、どう動かすかである。その点、カンボジアは現地通貨だけに閉じない。これは、他国で為替や送金の制約に苦しんだ経験がある人ほど、重みがわかるはずだ。
私が最も強く反応したのは、実務の通貨環境だった。IMFの分析でも、カンボジアはアジアで最もドル化の進んだ経済の一つと整理されている。ただし、完全な米ドル経済というわけではなく、米ドルが公的通貨リエルと併存する「部分ドル化」の経済である。
“Over the past decade, Cambodia has become Asia’s most dollarized economy.”
日本語訳:「過去10年で、カンボジアはアジアで最もドル化の進んだ経済になった。」
(出典元:IMF Working Paper)
また、IMF eLibraryでも、カンボジアは米ドルが公的通貨リエルとあわせて流通する「部分ドル化」の経済と説明されている。つまり、米ドルの存在感は非常に強いが、リエルが消えているわけではない。実務では、この「ドルが強いが、リエルも併存する」という前提で考えるのが正確である。
(参考:IMF eLibrary / Chapter 3. Asia's Most Dollarized Economy)
次に大きいのは、銀行アプリと日常決済の使い勝手だ。口座を持った後の利便性が高い。預けるだけでなく、送る、受ける、払うまでが一つにつながっている。この「日常で使えるかどうか」は、金利表だけを見ていると意外と見落としやすい。
ただし、ここで誤解してはいけない。「外国人でも口座を作りやすい」は事実に近いが、「誰でも簡単に作れる」とまでは言えない。必要書類や本人確認の厳しさは銀行ごとに違う。時期によって運用も変わる。ここを雑に理解すると、現地で足が止まる。
ベトナムドンをドルに変えたいと言っても銀行から断られる。儲かるまではいいが、そこから先が本当に大変だった。カンボジアに来て金融環境が一変した。
この感覚は、単なる感想ではない。事業をする人間にとって、金融環境はインフラそのものだからだ。
「年利3〜6%」は本当か
結論から言えば、条件付きで本当である。カンボジアでは、日本よりかなり高い預金金利が付く場面がある。だから「高金利」という理解自体は間違っていない。
ただ、ここで気を付けるべきなのは、数字の見え方だ。同じ定期預金でも、米ドル建てかリエル建てかで違う。大手行か中堅行かでも違う。満期一括受け取りか、毎月受け取りかでも違う。窓口で開くか、アプリで開くかで差がつくことすらある。
つまり、「3〜6%」という数字だけを切り取ると、かなり雑な見方になる。実際には、大手銀行の米ドル定期だけを見れば、もっと低い水準で並んでいることも珍しくない。一方で、より高い金利を出している商品や銀行もある。だからこそ、金利の高さそのものよりも、「その金利がどの条件で成立しているか」を見なければならない。
確認時点の公式表示では、ABAのUSD固定預金はおおむね年1.50〜2.25%、ACLEDAのUSD定期は商品により年1.40〜3.75%のレンジで案内されていた。
(出典元:ABA Fixed Deposit / ACLEDA Term Deposit)
私なら、次の3つを必ず分けて考える。一つ目は、通貨。米ドルなのか、リエルなのか。二つ目は、銀行の体力。大手なのか、中堅なのか。三つ目は、拘束条件。途中解約時の扱いはどうか、毎月受け取りか満期一括か。
高い金利には理由がある。その理由が「競争力」なのか「資金繰り」なのかを見極めることが、預金者には必要だ。数字だけをありがたがるのではなく、数字の背景を読むこと。それが今回のテーマの本質である。
私なら銀行をどう選ぶか
カンボジアには銀行が多い。だが、口座を作るなら何でもいいわけではない。私が重視するのは、単純な知名度ではなく、株主の質、開示の質、日常利用の質の3つである。
ABA銀行
普段使いの強さで見れば、まず候補に入る銀行だ。アプリの使いやすさ、日常決済とのつながり、口座開設後の運用のしやすさという意味では、かなり完成度が高い。生活口座としても、事業の入口口座としても使いやすい。
親会社の顔が見えやすい点も安心材料になる。ABA Annual Report 2024には、「ABA is a full subsidiary of National Bank of Canada」とある。こういう銀行は、金利だけで選ぶ人より、資金をどう日常的に動かすかまで考える人に向いている。
ACLEDA銀行
地場での厚みと安定感を重視するなら、外せない存在だ。知名度だけでなく、ネットワークの広さ、業務の裾野、現地での存在感という意味で、やはり強い。日本の大手金融機関の関与が見えやすい点も、日本人には理解しやすい安心材料だろう。
ただし、株主構成は正確に見た方がいい。ACLEDA Annual Report 2024の大株主欄では、ACLEDA Financial Trustが28.3251%、SMBCが18.0669%、ORIXが12.1271%などと開示されている。つまり、「最大株主がSMBC」と言い切るのは正確ではないが、日本の大手金融機関が主要株主に入っていること自体は事実である。
PPCBank
ABAやACLEDAより規模感では一段落ちるが、だから外すという話ではない。大事なのは、預金者にとって必要な安心材料があるかどうかだ。韓国系金融グループの資本が入り、一定の基盤はある。規模よりも、自分の使い方に合うかを見た方がいい。
PPCBankのCorporate Informationでも、主要株主としてJeonbuk Bank Co., Ltd.などが案内されている。私は、銀行選びでは「どこが一番有名か」よりも、「その銀行の後ろに誰がいるか」を見る。先進国の金融グループが大株主に入り、外部監査を受け、開示を続けている銀行は、少なくとも預金者が最低限見るべき条件を満たしやすい。
金利より先に見るべきは、貸出の中身である
預金金利が高いと、どうしてもそこに目が行く。だが、銀行を見るときに本当に大事なのは、金利表そのものではない。その銀行が何に貸して稼いでいるかである。
カンボジアでは、不動産担保の融資が大きな比重を持つ。だから、不動産市場が弱ると、銀行の数字にもじわじわ効いてくる。ここは「制度上そうなっている」で終わらせず、現場の実感としても押さえておきたいところだ。
不良債権比率が上がっているから即危険、というほど単純でもない。コロナ後の返済猶予の反動や、不動産市場の停滞が表に出てきた面もある。数字だけを見て怖がるのではなく、自己資本、流動性、親会社、監査、開示まで含めて全体で見るべきだ。
公認会計士としての感覚で言えば、見る順番はこうなる。まず株主と監査。次に貸出の中身。最後に金利だ。なぜこの順番なのか。株主と監査を見ると、その銀行の土台が見える。貸出の中身を見ると、その収益が何に支えられているかが見える。そこで初めて、金利が無理のない水準なのか、無理をして集めにいっているのかが読める。金利から入ると、この順番を逆にしてしまう。だから判断を誤りやすいのである。
口座開設で勘違いしやすい点
よくある誤解は、「外国人ならすぐ開ける」というものだ。実際には、銀行によって必要書類は違う。パスポートだけで進む話なのか、ビザや居住証明、雇用証明まで必要なのかは、事前確認が欠かせない。
ABAでは、外国人の口座開設要件として「有効なビザ付きパスポート」と「居住証明書類」が示されている。ACLEDAでも、外国人については有効なパスポート、ビザ、住所や就業を確認できる書類が案内されている。
(出典元:ABA Current Account / ACLEDA VTM 口座開設要件)
もうひとつ、カードの理解も雑になりやすい。見た目は同じでも、デビットカードなのか、預金を担保にしたクレジットカードなのかで意味が違う。ここを曖昧にしたまま日本に戻ると、「思っていたのと違う」となりやすい。
たとえばABAでは、Credit Cardsの案内で、固定預金を担保にしてクレジットカードを申し込めることが示されている。便利な仕組みではあるが、これを全銀行共通の話として理解しない方がいい。
スピード感についても同じだ。カンボジアの銀行は全体として速い印象がある。だが、即日で何でも終わると考えるのは危険だ。書類が揃っているか、窓口側の確認が通るかで普通に変わる。
だから、口座開設は「作れるかどうか」ではなく、自分が何をしたいかに合わせて設計する作業だと考えた方がいい。預金だけしたいのか。決済にも使うのか。海外送金もしたいのか。その整理が先にある。ここが曖昧なまま口座を作ると、後で使いにくさが一気に出る。逆に、使い方が先に整理できていれば、銀行選びも必要書類の確認もぐっと楽になる。
渡航なし開設を勧めない理由
カンボジアに行かずに口座を作れると謳う話は、今も耳にする。全てが即座に怪しいと言うつもりはない。だが、私自身は勧めない。
理由は単純で、銀行口座は本人確認の最前線だからだ。マネーロンダリング対策が強まる中で、本人が現地に行かずに済ませるやり方は、長い目で見ると不安定だ。今は通っても、後で運用が変わる可能性がある。
それ以上に、現地に来る意味が大きい。空港から街までの空気、銀行の窓口の対応、街中の決済の回り方、そうしたものを自分の目で見れば、この国で本当にやれそうかがわかる。口座開設は手続きではあるが、同時に現地判断の入口でもある。
どんなに緩い国であっても、銀行口座を作る時に本人が銀行に赴かないのは、今の世の中の流れから考えると基本的にありえないことだと思う。
私はそう考えている。口座だけ作って終わる話ではないからだ。実際に現地へ行き、自分の目で銀行と街を見ることまで含めて、口座開設である。
結論
「寝かせるだけで年利3〜6%」は、完全な誤情報ではない。ただし、その数字をそのまま期待値にすると危ない。今のカンボジアで見るべきなのは、単なる高金利ではなく、米ドルで資金を持ちやすいこと、決済と送金の動線が作りやすいこと、そして銀行ごとの差を理解したうえで選べることである。
大手銀行の米ドル定期だけを見れば、誰でも簡単に高利回りという話ではない。一方で、金利、通貨、銀行の体力、使い勝手を分けて見れば、カンボジアの銀行口座は今でも十分に魅力がある。
結局、選ぶ基準はひとつだ。金利で選ぶのではなく、自分の使い方に合う銀行を選ぶこと。 それが、最後に外さないいちばん確実なやり方である。
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