カンボジアでの会社設立の先に待つ諸々について|現地17年の公認会計士が語るリアル実務【2026年最新】
カンボジアでの会社設立は1ヶ月強で完了するが、本当の難所は設立後に続出する。
設立後も見据えた諸々の費用相場、業者選び、撤退の現実、日本在住代表の盲点、本店登記の罰金リスク、51%スキームまで、現地17年の実務目線で整理する。
カンボジアでの会社設立は、慣れた業者に任せれば1ヶ月強で終わる。設立サービス代行費用の相場も2,000〜5,000ドル程度だ。これだけ聞くと、現地の会社設立はそれほど難しい話には聞こえない。
一方、カンボジア法人は設立という「入口」よりも設立後の「維持」や最終的に撤退等で会社を精算する「出口」の方が圧倒的に難しい。 会社を真面目に清算しようとすると、税務調査を経由して全ての清算手続きが終わるまで2年かかった事例も実在する。
カンボジア法人は設立よりも設立後の手続きや維持業務が圧倒的に面倒。設立を考える段階で、来るべき出口まで含めて事業計画を立てておくべき。
カンボジアで17年にわたり事業を営んできた立場から、本記事では会社設立の費用相場・所要期間という「入口」の話に加えて、設立業者選びの落とし穴、撤退・清算の現実、日本在住代表者の盲点、本店登記の罰金リスク、不動産51%スキームの実態まで、「運営」と「出口」も含めた論点を整理する。これから設立を考えている方、すでに法人を持って運営中の方、いずれの立場にも実務上の判断材料として読んでいただきたい。
会社設立の費用相場と所要期間:2,000〜5,000ドル、完了まで1ヶ月強の中身
カンボジアで会社を作る場合、申請手数料の相場は2,000ドルから5,000ドル程度だ。これに最低資本金1,000ドルが加わる。日本では現在、会社は1円でも設立可能だが、カンボジア会社法(第144条)に基づき、最低資本金は400万リエル(額面4,000リエルの株式を最低1,000株発行=約1,000USドル)と定められている。資本金は申請手数料と異なり、なくなるお金ではなく会社の銀行口座に残るお金である。
申請手数料の幅が「2,000〜5,000ドル」と倍以上開く理由は、業者の体制と仕事の中身による。日本人スタッフが対応する進出支援先や会計事務所、いわゆるジャパンデスクを置いている事務所は価格が高めになりがちだ。一方でローカル系の事務所まで含めて一生懸命探すと、より安価な選択肢も見つかる。ただし安い業者に依頼すると、肝心の定款の中身が雑に作られてしまうリスクがある。これについては次のセクションで詳述する。
弊社の価格帯は、ちょうどその真ん中あたりに設定している。最初のお見積もり時に「我々より安いところもあるし、我々より高いところもある。我々はこの価格でやっている」と必ずお伝えするようにしている。
費用相場の幅は何で決まるか
価格差を決めているのは、定款の中身を申請者の事業内容にどこまで合わせて作るかだ。MOC(商業省、Ministry of Commerce)が定款の雛型を用意しているため、業者は雛型をそのまま流用することもできる。しかし雛型のままでは、申請者が実際にはやらない事業内容まで載った定款ができあがってしまう。
きちんとした業者は、設立を依頼した会社の事業内容、株主、代表者、取締役の人数まで聞き取った上で、定款の中身を整える。この聞き取りと反映の手間が価格差として現れる。「2,000ドルでまるっと済む」業者は、適当に作られている可能性が高いと見ておいた方がよい。
MOC登記・税務パテント・VAT認定の3段階
会社を登記して事業活動ができるようになるまでには、商業省(MOC)と税務当局という2箇所の役所に対して、合計3段階の登録を行う必要がある。
1段階目は商業省(MOC)への法人登記。定款を提出して法人として登記する手続きである。
2段階目は税務当局へのパテント登録。「パテント」と聞くと知的財産の特許を連想する日本人が多いが、カンボジアでは事業の税務登録を意味する。日本でいう税務署への事業開始届に近い。
3段階目はVAT(付加価値税、Value Added Tax)の納税単位登録だ。日本でいうインボイス制度に近い仕組みである。
2020年6月にカンボジア政府が新商業登録制度(CamDX)を導入してオンラインでのワンストップ申請が可能になり、設立手続きは大きく短縮された。本稿執筆時点(2026年5月)の感覚では、3段階の登録を全部こなしておおむね1ヶ月強で完了する案件が多い。
ただし「早く終わる」ことには副作用もある。業者に丸投げしてしまうと、ドラフトの確認時間を取れないまま手続きが進んでしまうのだ。
最初の一歩で要注意:定款の全部乗せという落とし穴
会社設立は、カンボジアに進出して最初にやらなければならない事務手続きだ。
つまり、現地のことも業者のことも何もわからない状態で、相談相手を選ばなければならない。にもかかわらず、判断材料がほとんどない時点で業者を決めることになる、というのが進出時の構造的な難しさだ。だからこそ、設立費用の安さや実績件数だけで業者を選ぶのは危険である。
業者選びで最も警戒してほしいのが、定款の「全部乗せ」だ。先述したとおり、MOC(商業省)は定款の雛型を用意している。この雛型には、学校運営や医療運営に至るまで、ありとあらゆる事業がリストアップされている。雑な業者にあたると、この全部乗せをそのまま流用してしまう。
困ったことに、パテント(事業税登録)は法人単位ではなく事業単位で取得する仕組みになっている。1つの法人が3つの事業を営むなら、3つのパテントを取らなければならない。そして全部乗せの定款をそのまま登録すると、定款の一番上にたまたま乗っている事業がパテント登録の対象になってしまうのだ。
実際に過去には、登録された事業内容が依頼者の本来の事業と全く関係なかったというケースもあった。後から事業内容を直すには登記変更を要するため、余計な手間と費用がかかってしまう。
業者と契約したら、定款のドラフトが上がってくる都度、内容を必ず自分の目で確認すること。あるいは、ドラフトの中身を理解できるまで丁寧に説明してくれる支援先を選ぶこと。これが業者選びの最低ラインだ。
それからもう1つ、忘れがちなのは税務申告の負担である。カンボジアの法人は、毎月の税務申告が必要だ。日本のように年1回の確定申告ではない。中間納税のような制度もあるが、カンボジアの場合は本当に毎月、税務署に申告書を出さなければならない。これが会計事務所のメインの仕事になっている背景でもある。
設立業者を選ぶ段階で、この毎月の税務申告まで継続して対応してもらえるか、その場合の月次顧問料はいくらかも、合わせて確認しておくべきだ。
撤退に2年、税務調査必須──真面目にやめようとする会社ほど苦しむ清算の現実
清算に2年かかる構造的理由
カンボジアで会社を持つことで将来発生する最も面倒な手続きは、設立や運営ではなく清算(解散)にある。 全ての解散手続きが終わるまで2年はかかった、という実例も存在する。
なぜそんなにかかるのか。カンボジアでは、法人を清算しようとすると必ず税務調査が入るからである。「会社を畳む=税逃れをして逃げる」という前提で当局は見てくる。清算手続きに入る頃には、在庫が減り、売上が落ち、資産が縮小していくのが普通だろう。これを当局は「処分してなくしたんじゃないか」「売ったんじゃないか」と疑いの目で見てくる。
実際に、日本の大手企業で撤退を決めた会社が「最後まで会社をきちんと清算しろ」という辞令で日本人駐在員を2年間カンボジアに残したケースもある。本社からの撤退指示を受けて、清算実務だけのために2年残るのは精神的に疲弊する。
外国系企業の現実とゾンビ企業
ここで申し上げたいのは、外国系企業の中にはこの困難を見越して、清算手続きそのものをやらずに帰国してしまうケースがあるという事実だ。住所も引き払う、オフィスも引き払う。電話番号もローカルの番号を登記したままにしておく。役所が「この会社、何の更新も税務申告もしていないな」と気づいて連絡を取ろうとしても、連絡先がもう機能していない。そして当局がそこまで追いかけてくることはほぼない。
結果として、MOC(商業省)の登記データには、登記だけが残って清算もされていない法人——いわゆるゾンビ企業が大量に積み上がっている。
私はこの現実を「いいことだ」と言うつもりはない。しかし、日本企業の真面目さがここでは構造的に裏目に出ているのは事実である。撤退決定後に2年残って清算しようとする企業もあれば、コンプライアンスを徹底するからこそ「もうやってられるかという話になる」と現場が消耗するケースもある。
未整備な制度下での法令遵守の論点
私が経営者の方にお伝えしているのは、ルール自体がまだ未整備で、運用にも問題が残る環境下で、無条件にコンプライアンス遵守だけを掲げることがどこまで合理的か、よく考えてほしいという点だ。法令遵守はもちろん大事だ。しかし、それは制度がきちんと整備されて、まともに運用されている前提があってこそ最大限の意味を持つ。
カンボジアが将来、清算手続きについても「普通のビジネスパーソンや法人から見てまともに整備された」と言える状態になれば、その時はきちんと清算する選択肢が私の中でも有力になる。
要するに、カンボジア法人は「入口」よりも「出口」の方が難しい。設立を考える段階で、出口まで含めて事業計画を立てておく必要がある。
日本在住のまま代表になる場合の盲点:払っていない給与への追徴課税リスク
カンボジア法人の代表者の氏名は、定款に記載される。MOC(商業省)への登記時に定款が登録されるため、代表者の氏名はカンボジア当局に把握されることになる。
しかし、代表者がカンボジア国内に居住している必要は法令上ない。日本在住のまま、カンボジア法人の代表として登記されることは可能である。日本に主たる事業があり、副次的にカンボジアに進出するパターンでは、日本にいながら時々カンボジアに渡航する経営スタイルを取ることが多い。信頼できる現地スタッフがいれば、オンラインで指示を出してリモートで運営することも基本的には可能だ。
ところが、ここに思わぬ落とし穴がある。日本在住のまま代表を務めている方の多くは、カンボジア法人から自分への給与を設定していない。日本側に主たる収入があり、わざわざ立ち上げ初期のカンボジア法人から自分に給与を払う必要を感じないからだ。当然ながら、現地で雇った従業員には毎月給与を払うが、始まったばかりの会社で経営者自身が給与を取らないというのは、経営感覚としてもよく理解できる。
ここで税務調査が入ると問題が起きる。当局の目線で見れば、日本人代表者として登記されている人物がいるのに、その人の給与が税務申告書に一切計上されていないのは不自然に映る。「それなりの日本人が代表になっているのに、なぜこの人の給与が乗っていないのか」という指摘の文脈で、払ってもいない給与に対する源泉所得税が追徴されるケースが、弊社のお客様にも、何件か実際に発生している。
対策としては、カンボジア法人の登記後、代表者である自分自身に対する給与を、不自然に高くもなく安くもない水準で設定しておく方が安全な場合がある。設定する給与水準や、そもそも給与計上が必要かどうかは、事業の規模、業種、本人のカンボジア滞在頻度などによって変わってくる。一律の正解はない。
本店登記でも要注意:固定資産税納付証明という落とし穴
バーチャルオフィスが使えない事情
代表者にカンボジア住所は不要だが、法人本体には本店登記をするためのリアルな住所が必要となる。
ここで意外と多い(事業立ち上げ初期は特に)のが、事業活動する上で「本店」が不要というケースだ。 例えば商業施設に店舗を構える場合。 商業施設の店舗だけで事業が完結するなら、別途オフィスを借りる必要はない。社長が日本から来た時はホテル滞在で動けばいいから、店舗以外にわざわざコストがかかる住所を持ちたくない、という発想は経営者として自然だろう。ところが、商業施設によっては「テナント店舗を本店登記の場所として使ってはならない」という契約上の制約が設けられているケースがある。これに反して本店登記してしまうと、契約更新ができなくなる事態にもなりかねない。
そういう事情もあって、極力安い家賃で本店登記用の住所だけを別に確保する、という工夫をされる方もいる。これ自体は合理的な判断だ。問題は、安さを追求するあまり、ローカル所有のアパートを本店登記の住所に設定してしまうケースである。
経営者の発想で考えると、滞在は毎回ホテルでいい、本店登記用にだけ安いアパートを1つ借りておこう、となる。動機としては理解できる。しかし、ここに意外な落とし穴がある。
固定資産税納付証明という関門
数年前から、税務当局が本店登記時の認可プロセスで、登記住所のオフィスビル(あるいはアパート)が固定資産税をきちんと納付しているかを確認するようになった。具体的には、不動産オーナーの固定資産税納付証明書の提出を求めてくるのだ。
きちんとオフィスビルを経営している大家であれば、当然固定資産税を納めているし、テナントから求められれば納付証明をあっさり出してくる。だから問題は起きない。ところがコスパ重視で家賃が安いローカルアパート等を契約してしまうと、実はそこのローカルオーナーが固定資産税を納めていないというケースに出くわすことがある。
この場合、税務当局から「固定資産税納付証明を出せ」と言われても、オーナーから証明書がもらえない。すると認可プロセスが進まない。さらに困ったことに、税務登記には期限が設定されているため、書類が揃わないまま期限を超過すると、借主側の法人に罰金が課される。
念のため整理しておくと、罰金の対象になるのは「オーナーが固定資産税を払っていないこと」ではなく、「テナント法人が期限内に税務登記を完了できなかったこと」だ。日本人の感覚だと、貸主の税務問題で借主が罰金を受けるのは違和感があるかもしれないが、カンボジアではこういう運用になっている。
本店登記用の物件を選ぶ段階で、不動産オーナーやエージェントに「固定資産税の納付証明を出せますか」と確認するのは、率直に言ってマニアックな質問だ。普通の借主はそこまで気が回らない。だからこそ、進出支援を依頼している側がこの点を押さえてくれているかどうかが、業者の質を見る一つの目安になる。
不動産51%スキーム:合法だが「お相手選び」がすべての世界
カンボジアでは、外国人および外国法人による土地所有が認められていない。これはカンボジア憲法第44条(「カンボジア法人とカンボジア国籍の市民のみが土地を所有する権利を有する」)および2001年土地法第8条で明確に定められている規制であり、スキーム全体の出発点になる(出典:JETRO「外資に関する規制」)。
そのため、現地で不動産を法人として保有したい場合、いわゆる「51%スキーム」が用いられることがある。日本人(または日本法人)が49%以下、カンボジア人(または現地法人)が51%以上の出資比率で法人を設立し、形式上はカンボジア現地企業として登記する。これによって、その法人は土地を保有できる主体になるという仕組みである。会社法第101条が「カンボジア国籍を有する自然人または法人が51%以上の議決権付き株式を所有している法人」を内国法人として定義しているため、このスキームは法的根拠を持っている。
このスキーム自体は、カンボジアおよび東南アジア各国でよく聞く事例で、違法ではない。きちんと運用すれば適法な手法だ。
ただし、過半数の議決権を保有しているのが自分以外の他者になる以上、その他者は法人に関して何でもできてしまう。これに対して、契約書の形で「経営判断や議決権は実際には少数株主側が行使する」「過半数を持つ側は基本的には経営に関与しない」といった合意を取り交わす運用が一般的だ。
弊社のお客様でも、不動産事業を目的にこのスキームを使われているケースは実際にある。ローカルパートナーのアレンジまで含めて支援することもある。
ここで注意しなければならないのは、契約書がどれだけ精緻でも、過半数を他人に持たれる会社になることに変わりはない、という点だ。リスクは完全にゼロにはならない。
カンボジアの会社登記は、基本的に「プライベートリミテッドカンパニー」という形式で行われる。日本の株式会社にほぼ相当する仕組みだ。日本でも近年は株券を発行しないケースが多いから、感覚的には日本の株式会社とほぼ同じと考えていただいてよい。
その上で考えてほしい。日本で会社経営をされている方ならわかるはずだが、株式の過半数を他人に握られているというのは、相当強い権利を相手に与えていることになる。裏でどんな契約があっても、大株主の気持ちが変わって会社の支配権を行使しに来た場合、会社が乗っ取られるリスクが完全にゼロになることはおそらくない。
だからこそ、51%スキームの肝は「お相手選び」に尽きる。名義だけを貸すこと、実際には経営に関与しないことを、本当に守ってくれる相手を選ばなければならない。私はこういう依頼を受けた時、過去に日系企業との間で何度も取引実績があり、そこで信頼が積み上がっているローカル側の人物・法人を慎重に選定するようにしている。「ネットで見つけた」「知り合いの紹介で1〜2回会っただけ」という相手では、率直に言って危険すぎる。
まとめ:会社設立は単発の手続きではない、運営と出口まで含めて相談相手を選ぶ
ここまで、カンボジアの会社設立から法人運営までを6つの論点で整理してきた。
本稿で繰り返し申し上げてきたのは、会社設立は単発の手続きではないということだ。設立を依頼した業者は、その後の毎月の税務申告、ビザ・ワークパミットの更新、本店登記の維持、給与設定、そして将来の清算手続きにいたるまで、長くお付き合いする相手になりやすい。設立費用の安さだけで業者を選ぶと、後で困る局面が必ず出てくるのはこのためだ。
特にカンボジアという市場の特殊性を踏まえると、相談相手は「設立だけ」ではなく「運営と出口まで含めて伴走してくれるか」で選ぶべきである。設立は1ヶ月で終わるが、その先の月次申告は毎月、ビザ・WP更新は毎年、そして撤退時には2年がかりの清算が待っている。設立段階での業者選びが、その後の数年〜十数年の経営の質を左右することになる。
なお本稿で取り上げた論点のうち、より詳細な実務手続きについては別記事で整理しているので、関連する記事を以下にまとめておく。
- 設立業者・依頼先の選び方
- カンボジア会社設立の費用と維持コスト
- カンボジア会社設立の手続きフロー
- カンボジア法人の銀行口座開設フロー
- カンボジア税務調査と見なし給与の実例
- カンボジアのビザとワークパミット制度(EBビザの6か月以上の延長にはワークパミットが必要)
弊社では、会社設立のサポートにとどまらず、毎月の税務申告、本店登記の維持、不動産取得スキームの設計、ビザ・WP更新、撤退時の清算まで、法人ライフサイクル全般を一貫してサポートしている。カンボジアでの事業展開でお悩みの方は、お気軽にお問合せいただきたい。
カンボジアで法人を持つということを、最初から最後まで一緒に考える
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