カンボジアの銀行はなぜ潰れないのか|金融大不況においても好業績を維持できる3つの理由
日本におけるバブル崩壊後の平成金融危機(の最悪期)とほぼ同水準である不良債権比率8.9%に達する大金融不況下にあるカンボジアで、なぜ銀行は潰れないのか。
その構造要因となるカンボジア特有の事情から、預金保護なき国での銀行選びについて、カンボジア現地17年超の公認会計士が解説。
カンボジアの金融業界は今、「金融大不況」のさなかにある。銀行システム全体の不良債権比率は8.9%。数字だけ見れば、2002年の日本における平成金融危機の最悪期に匹敵する水準だ。
それなのに、カンボジアの銀行はなぜ潰れないのか。それどころか、最大手のABA銀行は不良債権の損失をきちんと計上した上で、約600億円相当の最終利益を出している。日本の地方銀行の感覚からすれば相当に高い利益水準と言える。
なぜこんなことが可能なのか。答えを先に言えば、理由は3つ。ガチガチの資本規制、グローバル監査法人による厳格な会計監査、そして何より厚い利ざやだ。
この記事では、カンボジアで20年超にわたり事業を継続し、現地でマイクロファイナンスのライセンスを自ら正規に取得し創業・経営したこともある体験と、カンボジア起業以前に日米の公認会計士として大手監査法人トーマツに勤務していた経験からの会計士の視点から、金融不況下でもカンボジアの大手金融機関が潰れない構造と、預金者としてのリスクへの向き合い方まで整理する。
カンボジアは今「金融不況」にある:トリプルパンチの正体
日本でどこまで報道されているかは分からないが、カンボジアの金融業界は現在、「金融不況に入っている」という言い方を、特にカンボジア国内ではされている。
要因は3つ重なった。不動産の供給過剰、コロナ禍特例の終了、そして2025年半ばから始まったタイとの国境紛争。このトリプルパンチで、カンボジアの金融業界は不況にあえいでいる。
現地では「日本のバブル後の平成金融危機にすごく似ている」という話も取り沙汰される。これは単なる印象論ではない。数字を並べてみると、結構リアルに似ているのだ。まずは日本の平成金融危機を少し振り返っておきたい。
日本の平成金融危機の「50分の1サイズの相似形」:数字で比較する
日本では1990年の不動産融資の総量規制をきっかけに、バブル崩壊が始まったと言われる。1992年頃から崩壊が進んだが、渦中にいる間はそれと分からない。強烈な印象を残したのは1997年だ。山一證券、北海道拓殖銀行、三洋証券がトリプルで倒産した。山一證券の社長が泣きながら「悪いのは社員ではありません」と語る映像は、今でもたまに流れる。翌1998年には長期信用銀行2行、日本長期信用銀行と日本債券信用銀行も破綻し、大混乱になった。
平成金融危機の最悪期は2002年とされる。この時の不良債権の総額が約43.2兆円、不良債権比率は8.4〜9.1%程度。その後、小泉政権下の金融再生プログラムで一気に改善し、2005年には比率が2%台まで下がった。ざっと言うと、日本のバブル後の金融危機はこんな流れだった。
今のカンボジアの数字と並べてみる。カンボジア国立銀行(NBC)の年次報告によれば、2025年末時点の銀行システム全体の不良債権比率は8.9%。前年の7.4%から一段と悪化した。動画内で示した比較表がこちらだ。
| 日本とカンボジアの金融データ対比 | 日本 (2002年・平成金融危機最悪期) |
カンボジア (2025年末時点) |
|---|---|---|
| 金融機関の資産総額 | 約745兆円(GDP約500兆円) | 約15兆円(1,018億ドル) |
| 不良債権の総額 | 約43.2兆円 | 約2,900億〜8,500億円 |
| 不良債権(NPL)比率 | 8.4〜9.1% | 約8.9% |
| 主な背景 | 不動産バブル崩壊・地価の急落 | 不動産の供給過剰+コロナ特例終了+タイ国境紛争 |
※金額は円換算の概数
規模はおよそ50分の1。しかし不良債権比率はほぼ同水準で、構造がそっくり重なる。
今のカンボジアの金融不況は、日本の平成金融危機の相似形のちっちゃい版。
規模は違うが、同じ形の危機。この見立てを頭に入れると、ここから先の話が理解しやすくなる。
主要4行の業績:不良債権を落としてもこの利益が出る
では、その渦中にある銀行の業績はどうなっているか。商業銀行の上位3行と、後述する預金受け入れ可能なマイクロファイナンス機関の代表としてLOLCを加えた4機関の業績を見てみる。動画内で示した表がこちらだ(収録時点の直近決算となる2024年12月期の数値)。
| カンボジア主要4機関の業績 | ABA銀行 | ACLEDA銀行 | Canadia銀行 | LOLC(Cambodia) |
|---|---|---|---|---|
| 機関種別 | 商業銀行 1位 | 商業銀行 2位 | 商業銀行 3位 | MDI ※ |
| 総資産 | 約2.2兆円 | 約1.7兆円 | 約1.4兆円 | 約2,570億円 |
| 預金残高 | 約1.7兆円 | 約1.3兆円 | 約1.0兆円 | 約1,469億円 |
| 最終利益 | 479億円 (前年比 +8.3%) |
約197億円 (前年比 ▲18.9%) |
125億円 (前年比 ▲23.5%) |
64億円 (前年比 ▲39.1%) |
※1USD=160円換算の概数 ※最終利益は不良債権の引当(損失)を織り込み済み ※MDI=預金受け入れ可能マイクロファイナンス
なお、記事化までの間に2025年の監査済み決算が出そろった。ABA銀行の2025年決算は総資産が160.2億ドル(約2.5兆円)、預金残高が120.9億ドル(約2兆円)最終利益377.5億ドル(約600億円)と前年比26%の増益。NBCの集計ではACLEDA銀行が約1.8億ドル(約290億円)、Canadia銀行が約9,500万ドル(約150億円)である。金融不況が深まった2025年ですら、この収益水準が続いている。
総資産2兆円台というのは、日本で言えば第二地銀くらいの規模だ。ここで注目すべきは、これらの最終利益がいずれも不良債権に対する貸倒損失・引当金を織り込んだ上の数字だという点である。業界全体の不良債権比率が8.9%まで上がる中、大手行の比率は業界平均より低く5〜6%水準と聞くが、それでも相当な損失処理をした上でこの利益が残っている。
元銀行員である動画司会の野崎氏の感覚によると、日本の地方銀行なら4兆〜5兆円の預金量で最終利益200億円程度が相場とのこと。ABA銀行の預金量は2025年末時点で約2兆円。半分の規模で3倍の利益を出している計算になる。金融不況のさなかにこの数字。ここに、カンボジアの銀行が潰れない理由が凝縮されている。
カンボジアの銀行が潰れない3つの理由
理由①:ガチガチの資本規制でレバレッジが効かない
金融危機が深刻化するときには、たいてい銀行が「色んなこと」をやっている。2008年のリーマンショックでは、サブプライムローンが証券化で世界中にばらまかれ、各金融機関がデリバティブを通して気がついたら想定以上のリスクを抱え込んでいた。損失にレバレッジが効いてしまう構造だ。
カンボジアの商業銀行はこの対極といっていいくらいガチガチの規制のもとの運営を余儀なくされている。外資100%でも銀行を設立できるし商業銀行の数も多いが、中央銀行はライセンス発行にあたって厳しくチェックする。資本規制も分厚い。そして、やれることが基本的に不動産担保のビジネスローンがメインで、それ以外の金融的にややこしいことをやらせてもらえない。
日本の銀行なら、担保を取らない信用貸しで低金利のままバンバン貸す銀行も今は多いだろう。カンボジアではそうはいかない。しっかり不動産担保を取り、その枠内で貸す。シンプルなビジネスしかできないからこそ、損失が想定外に膨まない構造になっている。
理由②:グローバル監査法人の厳格なチェックが入る
カンボジアの商業銀行は株式市場に上場していなくても会計監査を受ける義務があり、かつどの監査法人から監査を受けてもよいわけではない。中央銀行が指定した監査法人、それこそアーンスト・アンド・ヤング(EY)やKPMGといったグローバルファームのクラスから監査を受けなければならない。
そういうグローバルファームが、わざわざカンボジアの一商業銀行に忖度する監査などする必要はない。しかも銀行のやっていることが極めてシンプルなので、監査法人視点ではおそらく監査が簡単だ。つまり、公表されている数字はかなり正しい。私自身に監査法人の勤務経験があるから言えるが、この構造ではごまかされようがない。
さらに、カンボジアの商業銀行および金融ライセンスを持つ金融機関は、上場・非上場にかかわらずアニュアルレポート(日本で言う有価証券報告書)をウェブサイト等で開示する義務がある。できていない金融機関も多いが、上位行はきちんと開示している。一行一行、個別にリスクを追いかけられる環境があるということだ。
理由③:利ざやが厚く、普通にやっていれば結構儲かる
日本は預金金利も貸出金利も低い状態が長く続いている。カンボジアは違う。商業銀行のビジネスローンは、普通に10%超の金利を請求する。最大手のABA銀行は相当リスクの低い融資先には一桁台で貸すが、一桁台といっても7〜8%だ。住宅担保の住宅ローンですら、一番安くて6%程度である。
一方の調達コストはどうか。ABA銀行の米ドル1年定期預金の金利は、今や2%台前半まで下がった。貸出10%超に対して調達2%台。利ざやは十分すぎるほどある。
規模が小さくて利ざやがそこそこ高い。普通にやっていたら結構儲かる構造。
この「普通にやっていたら儲かる」構造が、不良債権の損失を全額計上してもなお利益が残る体力の源泉になっている。
引き金はコロナ特例の終了:2025年から不良債権がごまかせなくなった
金融不況の要因のうち、メカニズムとして知っておくべきなのがコロナ禍特例の期限到来だ。
2020年から世界中がコロナ禍に入り、カンボジアでもお金を借りていた人たちが返済に困った。そこでカンボジア政府は緊急特例を設けた。銀行と債務者が合意してリスケ(返済期限の変更)をした債権は、不良債権、向こうで言うノンパフォーミングローンに区分しない、という措置である。
この特例の期限が、2025年3月で到来した。
そうなると、もうごまかせない。特例の期間中は「このローンは全部リスケ済みだから不良債権扱いにしない」というリストが各行にあったはずだ。特例が切れれば、それを全部不良債権として出さなければならない。監査法人の目が入っている以上、隠しようがない。だから2025年に不良債権比率が一気に表面化し、年末には8.9%まで上がった。
重要なのは、それでも各行が利益を出しているという事実だ。特例終了で損失を吐き出させられた上で、なおベースの利ざやが大きいから十分な利益が残る。不良債権比率8.9%という見た目の悪さと、個別行の体力とは、分けて見る必要がある。
預金できるマイクロファイナンス「MDI」とは:LOLCの6%金利をどう見るか
ここまで大手商業銀行の話が中心だったので、小規模金融機関の例も一つ紹介しておきたい。先ほどの業績比較に入れたLOLCだ。これには少し説明がいる。
カンボジアの金融機関ライセンスにはいくつか種類があり、一番大きいのが商業銀行、その次がマイクロファイナンスだ。マイクロファイナンスは小口無担保融資をカンボジアの一般の方々に提供するためのライセンスである。
商業銀行の資本規制やライセンス審査が極めて厳しい理由の一つは、銀行が預金を預かるからだ。親会社等から借りたお金を貸すのではなく、一般の国民・市民から預金を集める。その預金が破綻で消えるのは、親会社からの借入が焦げ付くのとはわけが違う。だから預金を受け入れる金融機関への評価は厳しくなる。昔の日本で言う「ノンバンク」という言葉がまさにそれで、お金は貸せるが一般市民から預金を預かれないから「ノン」バンクなのだ。マイクロファイナンスも本来はノンバンクである。
ところが2010年代の初め頃、カンボジア政府には「首都の商業銀行に縁のない地方の農民の方々にも、どんどん貯蓄を増やしてもらいたい」という意向があった。そこで優良なマイクロファイナンス7行だけに、預金を受け入れられる特別なライセンスを与えた。これがMDI(Microfinance Deposit-taking Institution:預金受け入れ可能マイクロファイナンス)である。
当然、商業銀行側には不満が溜まる。厳しい審査を経て何十億円も資本金を積んでようやく商業銀行になったのに、銀行に比べて相対的に低いハードルでライセンスを取得したマイクロファイナンスがなぜ預金を受けられるのか、と感じるのは当然といえる。
その後2010年代に外資系金融機関がカンボジアに殺到して銀行が急増した結果、カンボジア政府は方針を変更し「MDIの新規ライセンスはもう発行しない、各MDIは極力商業銀行になってくれ」という路線となった。当初7行あったMDIは、大手銀行との合併などを経て、今では3行しか残っていない。
その一行がLOLCだ。24年12月期の決算数値となるが、総資産約2,570億円、預金残高約1,500億円。マイクロファイナンス業界は今、商業銀行よりも不良債権比率が高いと言われ相当なダメージを受けているなか、LOLCは不良債権を落として前年から利益が約4割減らしながらもなお64億円相当の最終利益を残した。
そして米ドル1年定期預金にはまだ6%台の金利がつく(2026年6月現在)。
カンボジアの定期預金金利は5〜6%から2%台へ:それでも預けるべきか
金利の現在地:大手は2%台、中堅は3〜4%台
以下2026年6月時点の情報となるが、2〜3年前までカンボジアに詳しい人の合言葉は「カンボジアといえば米ドル1年定期5〜6%でしょ」だった。それがあっという間に変わった。ABA銀行が典型で、米ドル1年定期は2.25%まで落ちている。大手は貸出金利も調達金利も下げており、中堅銀行は3〜4%台をまだ維持している、という分布だ。
預ける妙味は確かに減った。ではどう判断するか。
マクロで見ればカンボジアの金融業界は日本の金融危機並みの危機にある。しかし一行一行、個別に見れば、全然まだ体力のある優良な金融機関が存在する。カンボジアの商業銀行は59行ある。全部がABA銀行のようなわけではない。ほぼ稼働できていない銀行もたくさんあるし、一行ずつ確認したわけではないが、10位以下は惨憺たることになっている可能性が十分ある。だが、カンボジアで事業や投資をしている日本人が、聞いたこともない銀行に預金するだろうか。しないはずだ。
弊社はABA銀行を推奨している。他の業者ではCanadia銀行やACLEDA銀行を挙げるところもある。この辺りの銀行は盤石な基盤を誇っており、そこまでの心配には及ばない。ABA銀行は立ち位置的に日本のMUFGのようなものだし、親会社はカナダのNational Bank of Canadaという民間銀行で、その100%子会社である。ACLEDA銀行は上場しており、株主には三井住友銀行(SMBC)が約18%、オリックスが約12%。日系で約30%を占める。大株主の顔ぶれによる安心感がある。
預金保護制度がない国で、リスクとどう向き合うか
ただし、忘れてはいけない点が一つ。カンボジアには預金保護のルールがない。日本のペイオフのような制度がない以上、リスクはゼロではない。一定額の預金を置くのであれば、各銀行の業績を定期的にウォッチできるか、あるいは現地に詳しいパートナーがいて何かあればアラームをくれる体制があるか。それがないと心配が残る。
もう一つの判断軸は、お金を預ける目的だ。事業の決済口座として置くなら、信用力の高い銀行一択である。運用として考えるなら、その6%が本当に取るべきリスクなのか、世の中にある他の6%と比べてどうか。ニュートラルに判断すべきだ。
まとめ:危機の見た目と個別行の体力を分けて見る
カンボジアの金融不況は、日本の平成金融危機の50分の1サイズの相似形だ。不良債権比率8.9%という数字は確かに危機的に見える。しかし、資本規制でレバレッジの効いたリスクを取れず、グローバル監査法人の監査で数字がごまかせず、厚い利ざやで普通にやっていれば儲かる。この3つの構造がある限り、上位行が突然倒れるシナリオは考えにくい。
見るべきは業界のマクロの数字ではなく、個別行のアニュアルレポートである。上位行は開示義務をきちんと果たしており、リスクは個別に追いかけられる。その上で、預金保護制度がないという前提を忘れず、預ける目的と金額に応じて銀行を選ぶ。それが、カンボジアの銀行と付き合う上での結論だ。
口座開設の具体的な手順や必要書類についてはカンボジア銀行口座開設ガイドにまとめている。金利・送金・口座凍結まで含めた業界の全体像はカンボジアの銀行業界の実態で詳しく解説しているので、併せて参考にしてほしい。
自分の資金をどの銀行に置くべきか
カンボジアの銀行が潰れない構造は、ここまで述べたとおり整理できる。ただ、実際にどの銀行にいくら置くか、事業口座と運用をどう分けるかは、事業内容や滞在形態、資金の性質によって答えが変わる。
金利の数字だけで選ぶと、取らなくてよいリスクを取ることになりかねない。個別の状況を整理した上で判断すれば、無駄なリスクは避けられる。
弊社はカンボジアで事業や投資を本気で進める方に対して、銀行口座の開設から日々の資金管理まで、現地17年超の知見をもとに伴走している。自社の場合はどう判断すべきか迷われたら、一度ご相談いただきたい。
本記事の内容は動画収録時点および本稿執筆時点(2026年7月)の情報に基づいています。金利・為替レート・不良債権比率等の数値は収録時点のものであり、最新の状況とは異なる場合があります。投資・預金に関する判断はご自身の責任で行ってください。
自分の資金をどの銀行に置くべきか
進出支援:銀行口座開設・決済スキーム構築
カンボジアの銀行口座開設をUSD550(VAT込)/口座で代行。個人・法人口座とも対応し、ABA銀行など現地商業銀行での開設から、送金・入金フローの設計、ECサイトと連携した米ドル決済スキームの構築まで支援。米ドル経済圏カンボジアの金融インフラを事業の力に変えます。
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