カンボジアは危ない国なのか? 現実の治安とリスク_本当に警戒すべきポイントは

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この記事のポイント

カンボジア進出の失敗は、治安が云々というよりも、制度運用の見落とし、薄利業態の苦しさ、現地視察や協業相手の裏取りなどあるべき確認の不足、などがその原因となりやすい。進出にあたって本当に警戒すべきポイントは何か、具体的に項目分けして整理する。

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2025年初頭から2026年前半(本稿執筆時現在)にいたるまで日本の報道で取り扱われるカンボジアと言えば、日本人も多額の被害を受けている国際的な特殊詐欺犯罪グループの巣窟であり、国境遅滞で隣国タイと軍事衝突が行われている紛争当時国であり、まさに「いま行くなんて到底ありえない相当に危険な国」と捉えられる状況にある。 実際、観光や出張がキャンセルされることも続発しており、観光業や進出支援ビジネスを手がける現地事業者への影響は甚大だ。
一方、実際にこの間もカンボジア首都プノンペンで事業も生活も継続している身としての日々の体感とそれら報道が生み出すイメージとの間にはかなり大きなズレがある。

カンボジアで通常の生活を送っている限り、特殊詐欺集団と接点を持つ機会はまずない。報道によれば、彼らは人目につかない施設内に実質的に軟禁された状態でスマホやPCに向かい続けており、日中に外出することは稀であると考えられる。彼らを監視・監督する管理側もおそらくは同様で、一般人と接触する機会はほとんどないと言えるだろう。 事実、私が知るカンボジア在住者の方々からも、そういう集団と思しき面々と遭遇・接触したという話は一度も聞いたことはない(海外に強制送還されると思われる集団を空港で見た、という話は聞くが)。 

「カンボジアに行くと詐欺集団に拉致される」という風聞も報道から生み出された誤解である。現地で詐欺行為に従事させられている日本人は、日本国内で高収入バイト等の勧誘を受け、自らの意思で渡航してきたケースがほとんどだ。何も知らない観光客や出張者を現地で拉致して詐欺行為を仕込むのは効率面から見ても極めて非現実的であり、かつ自らの意思で渡航してきた人材を活用するのと異なり誘拐・拉致の犯罪リスクをも負うことにある。頭が切れるであろう犯罪者集団がそのような非効率なオペレーションを組織的に行うとは考えにくい。

タイとの国境紛争に関しても、実際にタイ国境のすぐ近くにいればその緊迫感は感じられるし実際に砲撃を目撃・体感された現地在住者も存在する。 一方、首都プノンペンは国境から400km以上離れており、報道以外でそれらを体感することは全くと言っていいほどない。首都よりは国境遅滞に近い観光拠点のシェムリアップですら、世界遺産のアンコールワットがあるシェムリアップ市内と紛争地帯との距離は近いところでも150km以上離れている。
本来は観光ハイシーズンである2025年12月から2026年1月は、カンボジアのイメージ悪化で観光客が少なく、むしろアンコールワットなどは空いていて観光チャンスであり、ゆっくりと遺跡巡りを楽しむ事情通の長期在住者もいたほどである。

カンボジアに限らず、紛争やデモ、政治闘争などの海外情報は、高視聴率を狙えるホラーストーリー的に脚色されて報道されがちである。現地が実際にどうなっているかは、現地に実際に滞在している人間から生の情報を入手するしか方法はない。
海外進出を考える際、本当に考慮すべきポイントは、その海外進出先に関する最近の報道内容ではなく、進出にあたって論点となるルールや制度についての正確な現状把握と対応策である。


現行制度・ルールの正確な把握が必要_入国制度の小さな変化「e-Arrival」と「V-Pass」の落とし穴

2025年から2026年にかけて、事業活動に極端に大きな影響を与える制度変更はないものの、進出実務で見落としやすいのは、入国してから事業を開始、継続するにいたるまでの各種制度・ルールの現状把握とそれぞれの細部に渡る運用対策である。

たとえば細かい話ではあるが入国の際の新ルールとして2025年半ばから運用されている「Cambodia e-Arrival」と「V-Pass」がある。
現在、カンボジアに入国する際は7日前からe-Arrivalで情報を入力することでスムーズな入国が可能になった。しかしその結果、以前のようにパスポートにビザのシールが貼られなくなり、代わりにe-Arrivalに紐づいた「V-Pass」というものが電子的に発行されるようになっている。
入国後に警察から提示を求められる可能性があるだけでなく、現地で銀行口座を開設する際にもV-Passの提示が求められるケースが増えている。制度を知らずに、いざという時にV-Passのメールやアプリ画面を出せずに焦る人も多いため、実務上の注意点として押さえておくべきである。

この類の新ルールについての情報は、正確な現状運用情報がネット上で見つけづらい、古い情報がネット上に残り続けている、などの理由で正確な情報が収集しづらい。
また長期在住者であっても頻繁に海外の行き来をされない方の場合は新ルールを未体験、もしくは体験頻度が少ないケースもあり、意外と正確な現状を把握されていない場合もある。現地の知見者に頼る場合、その知見者の情報アップデートの精度については冷静かつ客観的な見極めが必要となる。


カンボジア進出にあたり警戒すべきポイント_失敗事例の共通点

カンボジアで事業を始めてもうまくいかず、長く停滞したり撤退せざるを得なくなるケースには、私見ではあるがいくつかの共通点がある。

初海外進出では、前提のズレがそのまま失敗になりやすい

第一に、カンボジアが「初の海外進出」であるケースである。
日本人感覚で見て品質が高く商品が良いからといって、その感覚をそのまま持ち込んでも現地では通用しづらい。
品質が高いだけでは足りない。価格だけでも足りない。立地だけでも足りない。カンボジア人に受ける店は、品質、価格、店づくり、見え方、車やバイクでの来やすさまで、複数の要素のピントが合っている。
たとえば、中心地の一等地だから勝てるとは限らない。駐車しやすいか、バイクを置きやすいか、通りから見えやすいか。日本人の感覚で「ここなら良さそうだ」と思った場所が、現地の消費者には刺さらないことは普通にある。

利幅が小さいビジネスはそもそも不利

第二に、粗利幅が小さいビジネスである。
売上は大きくても費用の金額もそれなりにかかり粗利や営業利益が薄い業態は、カンボジアでは想像以上に身動きが取りにくい。
その背景にはカンボジアの独特な税制がある。 カンボジアでは毎月税務申告があり、赤字であっても売上の1%を納める前払い法人税(ミニマムタックス)の支払いがあり、費用面では幅広いサービス対価にかかる15%の源泉徴収税があるなど、売上や費用に対して税金が次々と引かれていく。そのため、売上規模が大きくても費用規模も大きく利益率が低い業態は、想像以上に資金繰りが苦しくなる。 
日本の消費税にあたる付加価値税(Value Added Tax、VAT)は10%で、これも毎月申告・納税する。 日本でしっかり数字を見ながら事業をされてる方々であれば共感いただけるかと思うが、売上が順調に伸びてきたとしても仮受VATと仮払VATの差額を毎月納付するとなると月次キャッシュフローへのダメージはそれなりに響いてくる。 

現地ツアーで見せられる景色を鵜呑みにしない

第三に、進出支援の視察ツアーに乗っただけで意思決定をしてしまうことである。
進出支援会社が組む視察ツアーそのものを否定するつもりはない。入口としては有効だし、短期間で論点をつかむには便利である。ただし、そこで見せられる景色は、どうしても「来てもらうために選ばれた景色」になりやすい。

繁盛店、感じのいいオフィス、勢いのある話。そういうものを見れば、その気になるのは自然である。だが、そこで意思決定を終えるのは早い。そこから先に自分の足で回る時間を取った方がいい。
仮に飲食店での進出を考えるなら、2週間まとめてでも、1週間を数回に分けてでも、現地に来て自分で店を見た方がいい。プノンペンはそこまで大きい街ではない。少し通えば顔なじみもできる。開店の経緯、採用、離職、売上の波、物件の落とし穴まで、かなり具体的な話が聞ける。
視察ツアーは「きっかけ」にはなるが、「裏取り」にはならない。最後は自分の目で見た情報が必要である。


さらに警戒すべきポイント_カンボジアでよくある詐欺被害の典型パターン

カンボジアで長く事業・生活をしていると「日系企業や事業家がまた詐欺にだまされた」などという話は耳に入るし、実際にそういう事態を目にすることもある。
公開記事ではあまり生々しい話にまで踏み込むことはできないが、よくある典型パターンを以下に記載する。

内装・施工は、相場感がないと抜かれやすい

店舗を出すと、内装や施工の話が必ず出る。ここで怖いのは、依頼主に現地相場の感覚がないことだ。日本の感覚で見れば安く見える見積もりでも、現地の実コストとかけ離れていることがある。

この種の話は、後から初めて「あれは相場より高かったのか」と気づくことが多い。だからこそ、最初から1社だけで決めず、複数社の見積りと現地での相場感を重ねて見た方がいい。

大型案件の紹介話は一歩引くべき

大規模な道路補修工事や灌漑設備工事などの政府系プロジェクトの「外注業者選考代理人」を名乗る人物から、プロジェクトの特定事業部分を任せたいと持ちかけられるケースが実際にあるが、十中八九詐欺話である。

カンボジアでは、目の前に現れた人物が、いかに信頼できるルートからの紹介等であっても、実際どれくらい偉いのか、本当に権限を持っているのか、どの範囲まで決裁できるのかが、極めてわかりづらい。 偉いと思しき人ほど名刺を出さない事が多く、実際に偉い人でも業務用メールアドレスが個人名Gmailであったりと、どういう組織に属していてどれくらいの職位にあるのか、が

かりに美味しく見える案件が降ってきた場合、それがなぜ自社のところへ落ちてくるのか。まずそこを疑うことから始める。 その「選考人」とやらといかに立派なオフィスで議論して、法的拘束力がない覚書をもっともらしい式典で調印したとしても、健全な猜疑心を持って最後まで臨む必要がある。

「高収入の仕事」は犯罪につながるリスクもある

近年は、カンボジアで高収入の仕事があると誘われ、日本から渡航して犯罪に巻き込まれる事案も問題になっている。外務省も、好条件の仕事を理由に渡航し、監禁状態で不法行為に従事させられるケースに注意を促している。

海外で仕事した経験がない人が、よく知らない国へ行って、割の良いまともな仕事で大きく稼げる、などという話は現実的には一切存在しない(あれば真っ先に私等の長期滞在者が取り組んでいるはずだ)。 
多少は怪しさを感じながらも高収入に惹かれてリスク承知で飛び込んできたとしても、それは「ビジネスのリスク」ではなく「犯罪のリスク」である。 犯罪の片棒を担ぐどころか、犯罪そのものに手を染める結果につながる場合もある。 

日本人だから安心して信じてしまうリスク

海外にいる日本人相手のビジネスにおいて、「日本人だから」「長く現地にいるから」という理由だけですっかり信頼してしまい、日本にいる時なら当然行うはずの確認手続きを怠り、お金を持ち逃げされるなどの被害に遭うケースがある。 

日本人かどうかではなく、現地での法会社実態、過去実績、周辺からの評判などを確認する。 JETROやJICAなど日本政府機関の現地事務所に問い合わせるのも一手だ。

「海外で日本人をだますのは現地人ではなくむしろ日本人」というのは海外長期滞在者の間ではよく語られる共通認識となっている。  気をつけるべき重要なポイントと言える。


先入観や報道が産み出すイメージに振り回されない

カンボジア進出に限らず事業等での海外進出を検討する際、その国名から抱く先入観的なイメージや検討時点で流れているその国に関する報道などは、何らかのきっかけや参考にするのは良しとしても、何か決定を下すにあたっての判断根拠にするのはやめた方がよい。

直近の現地情報をいかにして集めるか。 手っ取り早いのは現地に精通した知見者を探しだし、その知見者が信頼できるようであれば、その伝手でまず現地に赴いてみるのが然るべきはじめの一歩。 いわゆる「百聞は一見に如かず」という話である。

進出前の不安を、現地目線で整理する。

カンボジアのリスクは、国名だけで判断すると見誤る。国境地帯の緊張、首都圏の治安、制度運用、税務実務、現地業者の質は、それぞれ別の論点である。

記事を読んで全体像は見えても、自社の業種や進出フェーズに当てはめると、判断は一気に難しくなる。薄利モデルで耐えられるのか、どこまで現地視察が必要か、誰の話を信じてよいかは、会社ごとに答えが違う。

CBSでは、現地で事業を回してきた立場から、制度説明だけで終わらない現場ベースの相談を行っている。法人設立前の確認事項、パートナー候補の見極め、銀行口座や税務の実務まで、進出判断に必要な論点を一緒に整理する。

最初から手続きを進めるのではなく、まず何を疑い、何を確認すべきかを固める。その順番が、カンボジア進出で大きな失敗を避ける最も有効な方法である。

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本記事は、カンボジアビジネスサポート(CBS)チャンネルで配信されたインタビュー動画の内容をもとに構成しています。
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髙 虎男
2008年カンボジア企業 / 公認会計士
アドバイスだけの専門家ではありません。カンボジアで17年間、自分の資金で事業を立ち上げ、従業員を雇い、行政の理不尽とも戦ってきました。その全経験をもとに、日系企業の進出を支援しています。
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