カンボジアで法人設立する流れとは?登記・定款・税務登録の実務ポイントを解説
カンボジアで会社を設立するとき、法人登記さえ済めば終わりだと思っていないだろうか。実際には、会社名、定款、資本金、税務登録、銀行口座、業種ごとのライセンス確認まで見ておく必要がある。本記事では会社設立時の制度の流れと実務でつまずきやすい点を解説する。
カンボジアでの法人設立の流れと、登記の先にある実務のリアル
カンボジアで会社を作りたいと考えたとき、まずは現地の商業省(Ministry of Commerce, MOC)での法人と定款の登記が必要になる。
しかし、それは最近すっかりスムーズになった日本のお役所手続きと同様に、というわけにはいかない。英語が通じるかどうかも含め、外国人がいきなり出向いて対応するのはハードルが高いのが現実である。多くは現地の専門家に依頼することになるが、それでも「お任せ」で済む話ではない。
会社名一つとっても、カンボジアの類似商号チェックは意外と厳しい。同じ国内に似た名前があるかどうかにとどまらず、過去にはGoogleで検索され「他国にこの名前があるから駄目だ」と弾かれたケースすらある。一方で、先行して登記をしておけば名称が守られるという側面もあるが、何でも自由に名前をつけられるわけではない。
定款は、雛形がそのまま使われるリスクに留意
商業省には定款の雛形が用意されているが、これには注意が必要である。雛形には学校や医療機関など、あらゆる事業が「全部載せ」で記載されていることがある。
さらに、数年間利益が出なかったら解散するといった不要な取り決めや、役員に関する特殊なルールがそのまま残ってしまうこともある。手続きを急ぐあまり、雑な専門家に頼んで雛形をそのまま登記してしまうと、後になって問題となる。
特に海外の子会社として設立する場合、親会社が正しく株主として登記されているかの確認も必須である。定款は、自社の事業に合わせてすっきりとした内容に整理しなければならない。
資本金は「1000ドルで済む」とは限らない
カンボジアの最低資本金は、ルール上は1000ドル(約400万リエル)である。IT企業やコンサルティングのような事業であれば、これで済むことも多い。
だが、建設業など特定の事業になると、役人から「少なすぎる」と指摘されることがある。実際に、1000ドルで申請しようとしたところ、担当官の裁量で「5万ドルは必要だ」と言われたケースもある。日本のようにお役所の手続きが画一的に標準化されておらず、担当者によって対応が変わるのがカンボジアの現実である。
銀行の仮口座開設と、税務登録という次のハードル
定款と資本金が固まれば、商業省の申請書類を持って銀行へ行き、仮口座を開設して資本金を入金する。そこから約2週間で設立の証明書が発行され、基本的な法人の登記は完了する。 ただ、これで終わりではない。
商業省での法人登記終了後、事業を始める前にまず税務当局での税務事業登録(現地では「Patent(パテント)」と呼ばれる)が必要となる。「 Patent」と言われると、ビジネス英語的にまず思い浮かぶ和訳は「特許」になると思うが、カンボジアでのビジネス会話で「Patent」といえばこの「税務事業登録」を指すことがほとんどである。
あわせて、日本の消費税にあたるVAT(Value Added Tax、付加価値税)の認定登録が必要となる(VAT Certificate、VAT認定)。このVAT登録制度は、日本で2023年10月から開始されたインボイス制度とほぼ同様の制度であるが、カンボジアでは1999年1月から制度開始されており日本よりも歴史が古い。
日本のインボイス制度はざっと言えば「適格請求書発行事業者」が発行した「適格インボイス(登録番号や適用税率などが記載された請求書)」がないと仕入税額控除が受けられない仕組みだが、カンボジアのVAT登録制度も同様である。VAT登録された業者が発行する、事業者名、TIN(納税者番号)、VAT額などの必要記載事項が明記されたインボイス(現地ではTax Invoiceと呼ばれる)でないとVATの還付や控除が受けられない。
VAT未登録業者はそもそもVAT(10%)を請求できない。 まだ事業立ち上げ初期で十分な収益がない場合、その業者に対する経費支払いはVAT支払い負担がなく、一見良いように感じられるが、このVAT未登録業者へのサービス対価の支払いは現地ならではの「源泉徴収税」ルールにより15%の追加コスト負担となるのが現実である。 この内容は別動画記事の「カンボジアで法人設立を急いではいけない理由」で詳細説明しているので、そちらをご参照頂きたい。
税務は毎月申告、赤字でもかかる税金がある
日本とカンボジアの最大の違いは、税務申告の頻度である。日本のように年1回の確定申告ではなく、カンボジアでは毎月の申告が基本となる。
毎月の税務申告にはまず、売上の1%を毎月納める「ミニマムタックス」という制度がある。これは最終的な法人税(カンボジアの法人税率は20%)の前払いのような性質を持つが、もし年間を通じて赤字だったとしても、毎月支払ったこの1%の税金は戻ってこない。毎月の資金繰りを考えるうえで、売上の1%は必ず出ていくコストとして見込んでおく必要がある。源泉税なども毎月発生するため、税務の手間は小さくない。
さらに費用面では、 先述したVAT認定未登録業者に支払うほぼありとあらゆるサービス対価・報酬を対象として、源泉徴収税15%の実質納税負担が毎月発生する。こちらについても別動画記事の「カンボジアで法人設立を急いではいけない理由」で詳細説明しているのでご参照頂きたい。
このようにカンボジアでは、事業開始直後から、最終損益はまだ赤字であっても、売上と経費の金額から税金が毎月徴収される構造となっている。
会計・税務を誰に任せるのか
税務申告の代行には現地のライセンスが必要なため、専門の会計事務所に丸投げするのも一つの方法である。
しかし、事業の初期段階で、人件費、家賃、売上といったシンプルな構造であれば、自社で内製化することもできる。カンボジアでは会計スキルを持つ若手スタッフを月300ドル(約4万5000円)程度で雇うことも可能である。最初はそうした人材を育てながら、自社で数字をチェックする体制を作ることも検討に値する。
カンボジアでの法人設立は、登記のルールを知るだけでは足りない。会社名、定款、資本金、そして毎月発生する税務をどう回すか。作った後に会社をどう運営していくかという実務の視点が不可欠である。
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