カンボジアのビザ制度と長期滞在の現実|2026年版・入国から就労許可まで
カンボジアの長期滞在・就労許可ルールの歴史を踏まえた「建前と現実」。ビジネスビザで実質無期限延長で長期滞在できた10年前からワークパーミット規制の唐突な厳格化までの歴史変遷や、オーバーステイで数千ドルの罰金になった最近の日本人事例など、2008年から数多くの長期滞在サポート事例を支えた公認会計士が一気に情報整理する。
カンボジアで長期滞在を検討するにあたってビザの種類について現地識者に問い合わせると、なぜか話が噛み合わないことが往々にしてある。 「イービザで入ってきてください」と言われて調べると「e-VISA」と「E VISA」があってどちらのことか分からない、「入国前にオンライン申請やっておきましょう」と言われても「e-VISA」と「e-Arrival」があってこれもどちらのことか、、等々。
さらに長期滞在のためのビザ延長となるとワークパーミットが必要とかクォータを申請するとか、色々な言葉が出てきてどこから整理すればいいか途方に暮れる人も少なくない。
カンボジアに2008年から在住し、日系企業や事業家の現地進出サポートに多数関わってきた経験から言うと、この関連制度の「ややこしさ」の真因は管轄省庁である労働職業訓練省(Ministry of Labor and Vocational Training、MOLVT)の2015年から25年の10年間にわたる「迷走と変質」にある。 当省は現地では労働省(MOL)と略される事が多く、以下MOLと記述する。
この記事では、入国ビザの基本から長期滞在の仕組み、就労許可の実態まで、現場の感覚を踏まえて整理する。費用や手続きに関する数値は情報収集時点のものであり、変動する可能性があるため、実際の申請時は必ず最新情報を確認してほしい。
カンボジアのビザの種類と入国手続き_e-ビザ申請、Eビザ、e-アライバルの違いを把握
カンボジアはノービザでの滞在ができない国だ。どれだけ短期間の渡航であっても、ビザを取得して入国する必要がある。
入国時に選べるビザは2種類ある。観光目的の「T VISA(ツーリストビザ、観光ビザ)」と、一般目的の「E VISA(オーディナリービザ、一般ビザ)」だ。2025年1月1日から料金が改定され、現在の入国時費用はT VISAが30米ドル、E VISAが35米ドルとなっている。どちらも空港到着時に空港内カウンターで購入できる(いわゆる「Arrival VISA」)ほか、事前にビザをE-mailで受け取れる「e-VISA」という制度もありカンボジア外務省による公式サイト(evisa.gov.kh)から事前にオンライン申請することも可能だ。
ここでまず混乱するのが先述の「イービザ」問題。 事前オンライン申請で取得する「e-VISA」では、申請時に「T VISA」と「E VISA」のどちらかを選択できる。
現地識者が「イービザで入国してくれ」と言う場合、入国後の長期滞在延長が可能な「E VISA(一般ビザ)」を指すことが多い。その「E VISA」の入手方法としてオンライン申請による「e-VISA」がある。 ここで事業進出のための入国者が「e-VISAで入国すればいい」とだけ意識して、ビザ種類選択で「T VISA」を選んでしまうケースが意外と多発する。
入国ビザの種類として「T VISA」と「E VISA」が存在し、そのビザの入手方法として「Arrival VISA」と「e-VISA」が存在する。 「イービザ」と言われたら「E VISA」と「e-VISA」どちらを指しているのか、しっかり確認することが重要となる。 現地識者側もしっかり「オンラインでe-VISA申請する場合はE VISAを選択してください」と明瞭に伝える必要がある。
ビザの「種類」として「観光目的のT VISA」と一般目的のE VISA」があり、ビザの「取得方法」として事前オンライン申請の「e-VISA」と空港到着時購入の「Arrival VISA」があります。
【入国時に選ぶビザ】
| ビザ種別 | 目的 | 費用 | 滞在期間 | 延長 |
|---|---|---|---|---|
| T VISA(ツーリストビザ) | 観光 | US$30 | 30日 | ✅ 可(現地で1回限り、最大30日延長のみ) |
| E VISA(オーディナリービザ) | 一般・ビジネス | US$35 | 30日 | ✅ 可(EBビザ等へ延長) |
【入国後の長期滞在オプション】
| ビザ種別 | 対象 | 有効期間 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
|
EB VISA (ビジネス) |
就労・ビジネス目的 | 最大1年(繰り返し更新可) | ワークパーミット(セルフエンプロイも可) |
|
ER VISA (リタイアメント) |
55歳以上の退職者 | 最大1年(繰り返し更新可) | 財産証明(運用は緩め) |
| CM2H | 長期移住・投資家 | 10年(5年後に国籍申請可) | 政府指定不動産への投資(要公式確認) |
※就労希望者向け(EG VISA)、留学生等学生向け(ES VISA)もあるが本動画では割愛
入国手続きの面では、「Cambodia e-Arrival」制度(https://arrival.gov.kh/ )が導入されており、2024年7月からすべての航空入国者に義務化されている。入国の7日前から、パスポート番号や渡航目的などの情報を専用アプリまたはブラウザから事前登録できる仕組みで、手続きを済ませておけば空港の入国審査でパスポートを提示するだけで通過できる。従来の紙の入国カードや通関申請書への記入が不要になり、プノンペン新国際空港での入国手続きは格段にスムーズになった。
この「e-Arrival」も先述の「e-VISA」と混同されることが多い制度だが、前者は入国前の事前情報登録制度(義務)であり、後者はビザの事前オンライン申請制度なので、別個の制度であるという認識が必要となる。
ちなみに「e-Arrival」は入国7日前からしか登録できないが、「e-VISA」申請は手続き上はいつでも可能だ。 が、e-VISAの有効期限は3か月となるので、出国予定日から3か月以内の申請が必要となる。
事業や投資目的でカンボジアに入国される場合、初期段階であれば以下のポイントを意識しておけば問題ないと思われる。
1. 入国7日前に「e-Arrival」登録 (何度も来られるなら専用アプリ推奨)
2. ビザは「e-VISA」事前申請もしくは空港到着後に「ArrivalVISA」を購入
3. 取得するビザの種類は「E VISA」
EBビザで実質無期限に滞在できる仕組み
カンボジアに長期滞在する王道のルートは、「E VISA」から「EB VISA」への延長を繰り返すやり方だ。費用が比較的安く、手続きがシンプルで、繰り返しが利く。カンボジアに長期滞在するにあたって現時点では最もコストパフォーマンスが高い。
手続きとしてはまず「E VISA」で入国した後、「EB VISA」へ延長申請を行う。EBのBはビジネス(Business)のBで、現地就労目的の長期滞在ビザ(いわゆるビジネスビザ)だ。延長は3か月・6か月・1年の単位で選べる。1年延長の費用は代理店によって異なり、2026年初頭現在おおむね290〜300米ドル程度が目安だが、時期や代理店により変動するため事前確認が必要だ。この1年延長を更新し続けることで、実質的にほぼ無期限にカンボジアへの滞在が可能になる。
1年延長してその後また更新する。するとずっとその1年間を繰り返して延長できるんです。だからある意味、実質的にはほぼ無限にいられるという状況になっています。
ただし、2017〜2018年ごろからEB VISAの延長にはワークパーミット(就労許可)の取得が必要になった。それ以前は就労する意思表示だけで延長できていたが、現在は要件として加わっている。ワークパーミットの詳細は次のセクションで説明する。
一方、事業や投資目的でカンボジアに複数回渡航するが1回あたりのカンボジア滞在を30日以内に抑えられるなら「マルチプルビザ(数次ビザ)」という選択肢もある。
東京の青山一丁目にある在日本カンボジア大使館や空港のアライバルビザ窓口で申請でき(「e-VISA」では申請できない)、期間として1年・2年・3年有効の長期滞在ビザが取得できる。
一度の滞在期間が30日以内であれば何度でも出入国できるため、日本とカンボジアを定期的に往復する経営者や投資家に向いている。
ワークパーミット制度にサイレント修正(26年3月)、迷走するMOL
EB VISAの延長にはワークパーミット(就労許可、以下WP)が必要だと述べた。ここで「自分を雇ってWP発行申請してくれる会社がカンボジアにない」と困る人が出てくる。しかし2026年1月時点では、会社に雇われていなくてもWPは取得できていた。
「Self-Employed(個人事業主)」としての申請がその手段だ。自分が自分を雇用する形でWPを申請し、そのWPを根拠にEB VISAを1年延長する。2026年1月時点ではこれが可能な状況になっていた。
そしてこの個人事業主としてのWP申請は2026年3月15日以降、実質的に不可能な状況になった(動画収録時点では可能であった)。 ”実質的に”と表現した理由は、MOLからの公式アナウンスが特にないままWP申請システム上で「Self-Employed」による申請機能が停止される状況となったからだ。カンボジアで散見される、いわゆる政府による「サイレント制度修正」というやつだ。 そしてこの修正は2024年4月末時点でまた再度らサイレント修正され、本稿公開時点では申請可能な状況となっている。
この26年3月から4月のサイレント制度修正の繰り返しのような事態は今に始まったことではなく、ここに至るまでの10年の間に外国人の現地滞在に関する規制は右往左往する迷走を繰り返している。
10年前の2016年当時、外国人のEB VISA延長には手続き費用負担以外に必要とされる要件は特になかった。 外国人は「就労目的です」といってビザ延長するだけ1年延長を繰り返す事ができ、実質的に永住可能な状況になっていた。
そして2017年9月、MOLがいよいよ制度を厳格化させ、EB VISAを6か月以上延長する場合はWPの提示が求められることになった。 その段階では先述した個人事業主としてのWP申請は通常の基本ルールとして存在していた。
2018年、MOLは外国人の特定職種について個人事業主のWP発行を停止する通達を発表。美容師、路上商人、運転手など10数種類が対象であった。 当時この通達は唐突にアナウンスされ、関係する外国人個人事業主だけではなく彼らのサービスを受けていた多くのカンボジア人にとっても衝撃をもって受け取られる発表となった。 そしてこの通達はその1か月後に急遽撤回されることになる。
多分これ、カンボジア人からも文句が出たんだと思うんですよ。カンボジアの偉い人が「俺は外国人美容師に髪切ってもらってるんだ」みたいな。
国内の自国民雇用を守るためには外国人就業者への一定の規制は必要である一方、外国人専門家の排除は国内サービス高度化の妨げにもなり、レベルの高いサービスを受けたい自国民自身からの反発があったと見られている。
この騒動のあとも「外国人の個人事業主WPをこのままに許すべきか」という議論は続いていたが、特に規制再強化の動きもなく7年の歳月が経過し、今年年26年3月には前述のサイレント制度修正が繰り返されるなど迷走が続いている。
ちなみに現在カンボジアで働いている方は、自分のワークパーミットに何と記載されているかを一度確認することをお勧めする。会社から申請して発行されたと思っていたWPが、実は「Self-Employed」発行になっているケースが実務上は珍しくない。代行エージェントが手続きの簡便さからそのように処理しているケースもある。実務的・法的に特に問題になるわけではないが、自分の在留資格の根拠がどこにあるかは把握しておくに越したことはない。
オーバーステイは「罰金を払えば終わり」だが、落とし穴がある
ビザの有効期限を超えて滞在した場合、カンボジアでは1日あたり10米ドルの罰金が課される。空港の出国手続き時にその場で精算して帰国できるため、3日間のオーバーステイなら30ドルを払えばそれで終わりだ。ただし30日を超えると、罰金に加えて拘留・強制送還・入国禁止のリスクが生じる(ここ数年、実際そのリスクが具現化した事例を聞いたことはないが)。
短期間のオーバーステイであれば、わざわざ隣国へのビザランをするより罰金を払う方が現実的な判断になることもある。 隣国に1回出国して戻ってくる旅費交通費と1日10ドルの罰金、どちらが高いかという話だ。
ただし、「払えば終わり」という認識が油断につながるケースがある。
以前、弊社とは別の日本人経営者のもとにインターンとして来た学生が、1年近くカンボジアに滞在したことがあった。E VISAで入国はしたが、EB VISAへの延長手続きをしないままビザの有効期限は切れていたが、日常生活の中でそれに気づかなかった。ビザが切れてオーバーステイとなっても入国管理局から特にアラームや通知が届くわけでもない。有効期限切れは、空港の出国カウンター(イミグレ)で初めて指摘される。
その学生の場合、インターンを終えて帰国しようとした空港のイミグレで300日超のオーバーステイを告げられた。3,000ドル超の罰金だ。 その日本人経営者は空港までは車で送ってくれたが空港入り口でお別れしていたため、その学生はイミグレではその場に1人だった。似たような事例は実際に起きている。
「オーバーステイ1日10ドル」という罰金の安さもあり、油断した長期滞在者がうっかりビザ期限を忘れて罰金を支払ったというケースはよく耳にする。 自分のビザの有効期限はしっかり把握しておく必要がある。
リタイアメントビザとカンボジアマイセカンドホーム_長期移住の現実的な選択肢
EB VISA以外の長期滞在手段として、リタイアメント層向けに2つの選択肢がある。
ER VISA(リタイアメントビザ)
ER VISAはリタイアメントのRを冠したビザで、基本的に55歳以上が対象だ。1年更新で、EB VISAと同様に繰り返し延長できる。
建前上は財産証明(一定以上の資産・収入・年金等)が必要とされているが、収録時点での現場の運用は緩い印象がある。財産を詳しく提示しなくても、年齢だけで通ってしまうケースが実際に起きている。ただしこの運用は今後変わる可能性があり、現時点での正確な要件は入国管理局に確認した方が安全である。
カンボジア・マイ・セカンド・ホーム制度(CM2H)
2022年に正式スタートした制度で、カンボジアを「第二の故郷」にしてほしいという趣旨のプログラムだ。政府指定の不動産案件への投資と、協会への入会費(寄付名目)を条件に、10年間の長期居住ビザが取得できる。さらにビザ取得して5年経過後にはカンボジア国籍の申請が可能とされている。投資額の要件については情報源によって差があり、私自身はこの制度を利用したことがないため、最新の条件は公式窓口(cm2h.com)で直接確認してほしい。
国籍取得については一つ注意がある。日本の国籍法上、他国の国籍を取得した時点で日本国籍は原則として自動喪失する。国際的に国籍情報がリアルタイムで共有されるシステムはなく、実態として二重国籍状態になっているケースが存在するが、法律的には「喪失」している状態だ。
CM2Hが実質的に意味を持つのは、カンボジアの土地を自分名義で所有したい人に対してだ。カンボジアは外国人による土地所有を認めていない。カンボジア国籍があれば土地の登記名義人になれるため、投資目的でカンボジアの不動産に直接関わりたい人にとっては一つのルートになる。その目的があるなら検討に値するが、制度の詳細条件は随時変化するため、公式窓口での確認は必須だ
クォータ制度と外国人雇用_10%ルールの建前と現実
カンボジアで外国人を雇用する際に、外国人経営者の意識外に置かれることが多いが実は重要な制度として「クォータ(Quota)制度」がある。 外国人雇用人数は原則としてカンボジア人従業員数の10%以内としなければならないと定めたこのルール。つまり外国人1人を雇用する場合、現地カンボジア人を10人以上雇用しなければならないというルールだ。
この比率は東南アジアの中でも高い水準で、タイやベトナムが5〜6人程度であるのと比べても厳しく見える。製造業のように多くのローカルスタッフを雇用する業態であれば自然にクリアできるが、少人数で運営するオフィス系の事業では、日本人スタッフを1人増やすたびにカンボジア人を最低10人雇わなければならない計算になる。
で、実際の実務的に行われている慣行としては例外規定の適用である。 外国人従業員数がカンボジア人従業員数の10%を超える場合でも、労働省に対して特例許可を申請すれば問題ない(当然お金はかかる)。結果としてこのクォータ制度は「外国人雇用枠」を購入する制度と化しているのが実態と言える。
ちなみに前のセクションで触れた個人事業主WPで就労した外国人は、このクォーター制度の枠外とされていた。経営者が実質的には雇用している外国人スタッフに個人事業主WPを発行させるのは、この構造を知った上での判断であることが多い。
個人事業主WPの保持者に業務委託する契約形態をとれば、実態的には雇用関係であってもクォータ制度は適用されない。
カンボジアで会社を設立して外国人スタッフを雇う場合、本来はその10倍の人数のカンボジア人を雇わねばならない。 それをしていない場合は何らかの形でそれが回避されているか、役所に指摘された場合に無防備な状況であるかのどちらかである。 特に会社経営者の方々にはご留意願いたい。
日本人のカンボジア長期滞在、制度はシンプルなのに何故こじれるのか?
カンボジアで日本人(カンボジア視点で外国人)が長期滞在するための諸制度(ビザやWPのルール等)は実は極めてシンプルで、他国に比べるとかなり緩いルールと言える。
それなのに何故、短期滞在者はもちろんのこと長期滞在者であっても本人もしくはその周辺でルール違反による罰金等のミスや手違いが絶えないのか?
私の推察も入るが、その背景、理由は以下であると考えている。
1.
MOLがこの10年、制度の厳格化と緩和の右往左往(迷走、変質)を繰り返し、その時々に対応を余儀なくされた外国人にはその時々の感覚しか記憶に根付いていない。
2.
長期滞在者は自身とその周辺にとって対応が必要な時点のルールしか把握しておらず、制度変更への対応実務アップデートがおろそかになりがち。
3.
進出支援業者のサービスが進出初期段階のサポートにとどまる事が多く、長期滞在者にふりかかる面倒をそもそも知らない。
様々な形でカンボジアに関わる日本人・日本企業の支援を長期間行ってきた身として言えることは、新興国への進出を成功させるいには変化を続ける新興国の諸制度に柔軟に対応する術を体得するか、それができるパートナーと長期視点で付き合うか、である。
自分のケースに当てはめると、どのビザが最適か
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